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第25回 不正を防止するために(2/2)

アルベリーアジアCEOの増井哲朗です。

 

今回は「不正を防止するために(2/2)」として、生産会社で発生する不正とその防止方法を書きます。

対象としては、従業員数200名程度までの企業規模をイメージして書きますが、大企業でも類似の事例は起きています。

 

なお、これから述べる事例は、全て私がタイで仕事してきた15年間で、実際に経験したことです。

決して物語や絵空事でないことを最初にお伝えしておきます。

 

本稿では不正の典型的な事例を、まず列挙いたします。その後に、これをどう防ぐかという方法を述べたいと思います。

それでは、早速、不正発生の具体例を見ていきます。

スクラップの処理に関する不正

生産会社で最も不正が多いのは、スクラップの処理に関わることです。

金属加工業であれば、プレスで打ち抜いた後のスクラップ、切削加工の切削屑、消耗工具の廃品、あるいは木製パレットの廃棄木材等々、化学系であれば、使用後の廃棄薬品や副次的に生産される薬品やガス、塗装系では使用後の溶剤など、生産会社にスクラップはつきものです。

そして、この処理に関連して不正が起きます。

 

日本では、スクラップを払い出す際に、処理費用を業者に支払う、いわゆる「逆有償」という形態もあり、スクラップの処理はお金のかかるものだという固定観念があります。しかし、 タイでは全てのスクラップは何らかの価額:有償で引き取られるものだと考えるべきです。タイで逆有償がないわけではありませんが、それは本当に特殊な廃棄処理をするような物品(毒性の高いもの等)に限られます。

スクラップの処理についての固定観念から、日本人監督者は「持って行ってくれるならありがたい」という程度に考えているケースをよく見かけます。

 

こうしたことから、元々、不正が芽生える土壌があると言えます。スクラップ業者の選定をタイ人スタッフに任せきりという会社も多いと思います。スクラップを払い出しているのに、自社で計量していないという会社もあります。そして、時間の経過とともに、業者との癒着という悪い関係が発生します。スクラップの払い出し数量と価格がいい加減になります。会社は長期的・継続的に大きな損害を受けます。

購買に関係する不正

次に購買関係です。生産会社では原材料はじめ、多くの物品を購入しています。当然のことながら、大きなお金が動くわけですから、油断すれば即、不正は発生します。購買に関する不正の場合、社内の複数人が結託するだけでなく、外部の関係者を巻き込んでの不正、あるいは外部の業者が主導して不正というケースもあります。

例としては、納入品の数量をごまかされる場合、タンクローリーで納入に来たブタンガスの業者(運転手)がガスを半分だけ設置タンクに入れて、残りをガスステーションで売っていた事例、水を納入する業者も同様です。それから、常に流動している消耗品のパレットなども数量をごまかしやすい物品です。

 

次に少し手の込んだ不正です。

それは、会社の中でも実力のある調達部長とか工場長が、友人にあるいは友人と共同で別に会社を設立し、そこから不当な高値で購入して、キックバックを受け取るというケースです。例えば、クーラーの定期点検に10万バーツのINVOICE が届けば、不思議に思います。その金額を出せば新品が買えるわけですから。クーラーのメンテ会社は購買責任者の個人会社でした。

これが、機械の設置工事や金型・治具のケースでは、被害額は跳ね上がります。

 

それから、原材料、最終製品の窃盗です。

物が市場で販売しやすいものであれば、簡単に不正は起きます。ただ、この場合には不正の立証責任が会社側にあるとか、無いとかよりも明確に犯罪です。刑事事件で裁かれます。夜勤の時に、価値の高い非鉄金属の板を塀の外に待ち構える共犯者に放り投げる。塀と地面との隙間に穴を空けて、そこからパイプなどの資材を外に出す。製品を納入する際に、通過する道路脇で待機する共犯者に手渡すなどです。

不正の被害を抑えるために

では、どのようにこうした生産会社で起こる不正を未然に防ぐか、あるいは被害を最小限に抑えられるかを私の経験からお話しいたします。

 

一番大切なのは、工場管理に当たって、常に生産全般にわたって、理論値を計算しておくということです。これが、アジアの工場経営での不正防止の基本です。幸い、タイの日系企業の経営者は技術系の方が多くいます。簡単なエクセルベースの管理表で、月々の生産量の変動にあわせた使用原材料や消耗品の数量を把握するのはお手のものでしょう。

 

また、人員に余裕があれば、さらに詳細な比較データを作成する係を設けるのも良いと思います。常に「こうあるべきだ」という理論値と「結果はこうだった」という実際値を比較するというのが、不正防止の基本です。

 

そのことにより、プレスでの打ち抜きの例では、モデル別に原材料歩留まりは決まっていますから、卸した原料から、本来スクラップとして発生する量は把握できます。また、切削屑においても、屑発生量を理論値として把握するのは難しいことではありません。加えて、切削周長から適正切削チップの使用数量を把握できます。塗料でさえ、膜厚と塗着率から塗料と溶剤の理論的使用量は把握できます。

 

それと二番目は、毎月の在庫数量確定のための「棚卸し」の実施です。毎月末の夕刻、また月初日の始業前に、工場を止めて全員で棚卸しをします。原材料・仕掛かり・製品・保留品・スクラップ・備品・消耗品などの実際の数を確認します。タイでは、税務的にも在庫の管理は厳しく要求されますので、その面からも必須な作業です。

 

まずは、会社の仕組みとして、上記二つの不正防止策がある前提で、加えて、いくつかの具体策を述べます。

細かな注意点

業者選定をスタッフに丸投げしないこと。

必ずどのような経緯で、この業者が選ばれたのかの理由を明確にしておかなければなりません。スクラップの場合、よくあるケースは「地元の有力なボスが・・・」というような説明をタイ人スタッフはしますが、真偽も併せて十分な確認が必要ですし、取引が大きくなってからではますます、その既得権を手放す訳がありませんので、最初が肝心です。

また、公的な領収書も発行できないような個人事業者との取引は避けるべきです。加えて、業者選定をする際に複数業者との取引を前提にすることです。月の前半はA社、月後半はB社に払い出すというのも良いと思います。

 

それから、自社計量(看貫)は必須です。

重量計は安価で良い物があります。私はそれにミニプリンターを付けるのを勧めています。

必ず、払い出し時に計測して、INVOICEはミニプリンターの刻字数字チケットを貼ってあるものしか認めないというやり方です。

 

購買依頼書・購買指示書の確認・署名は必ず経営者が行うことです。そのためには物品やサービスの内容はタイ語と英語併記にします。どのような生産会社でも50項目くらいの物品のタイ語:英語標準表記を決めておけば、ほぼ、90%は網羅できるはずです。

そして、購買基準書(決裁権限や複数見積もりの原則等)を作成し、適正に運用して行くことです。

 

不正防止のためのタイ人スタッフとしては、工場長と購買責任者が非常に重要です。ただし、工場長が購買権も同時に持つというのは止めるべきです。小規模な生産会社では、人員の制約から、工場長に全ての権限が集中するというケースがあります。そのような場合には、社長が直接購買指示を出す方が不正を防止できます。

 

工場の警備体制も十分に検討すべきです。現在は防犯カメラなどのシステムも安価になりました。24時間体制で見張ってくれるカメラの設置は既に常識です。言うまでも無く、警備会社の契約も適宜見直していく必要があります。

 

それから、少しの不正でも見つけた場合には、必ず罰則規定に従い当該者を処罰するべきです。私の今までの経験からは、不正をする人は再犯するケースが多いです。

私は「腐ったリンゴは箱から出す」、そうでなければ良いリンゴは守れないという主義です。

最後に

ここまで、書き進めてきますと、またまた皆様からの

「これは特別なケースだね。当社のスタッフは皆、会社思いの良い連中だよ・・・」というような声が聞こえてきそうです。

その通りです。一部の人を除いて従業員の大部分は善良な人たちであることは間違いありません。

 

それでも、最近、前述のような不正が減らないどころか増加傾向にあります。私もなんとかしなくてはならないという義務感から書いていると言うのが本音です。

経営者の皆様には、前回の記事で述べた「従業員に魔が差す一瞬」を与えないように不断に努めて頂きたいと願っています。

 

今回は生産会社に発生する不正の事例とそれを防止する方法について、私の経験からいくつかの方法を提言しました。お役に立てば幸いです。

今回はこの辺りで失礼いたします。

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