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第24回 不正を防止するために(1/2)

アルベリーアジアCEOの増井哲朗です。

 

今回は会社内で発生する、いろいろな「不正」を防止するための方法について書いてみたいと思います。このテーマに触れるのは気が重いのですが、最近の急激な増加傾向を考えると、書かざるを得ません。

多岐にわたる不正の種類

会社における「不正」と言っても、広い領域にわたります。大きく分けると、会計・経理部門で発生するものと、その他に分けられると思います。また、生産会社特有の不正というものもあります。

 

また、会社の規模によっても、不正に特色があります。従業員が5-30名程度ですと経理担当スタッフは1名というケースが多いと思います。この一人のスタッフが不正をしようとすれば、悪事が成功するかしないかは別として、周りに眼が少ないわけですから着手は容易です。

逆に30名以上の規模になれば、スタッフも多くなりますから、発生頻度は減りますが、起きたときには複数人で実行するケースが多いので、被害額は大きくなります。

また、生産会社の場合は、規模がある程度大きい(従業員30~200名)方が管理の網の目が粗くなるので、発生頻度は高くなる傾向にあります。

 

今回は会社の規模として、商社的会社では経理担当者が1名+α程度の会社、生産会社では従業員200名程度までの規模をイメージして「不正防止」について、

① 会計的な不正を防止するために、小切手と小口現金管理について

② 生産会社で発生する不正、その他の一般事例について

以上の2回に分けて、書き進めたいと思います。

 

まず、私のこの問題に対する基本的な立場をお話しします。もちろん、一番悪いのは不正を実行した本人です、これは何も疑いのないことです。ただ、人間には誰も“魔が差す”という一瞬があります。

もし、あなたが机の上に10万バーツの札束を置いて出かけて、帰ってきたら無くなっていたというようなとき、もちろん、盗った人も悪いでしょうが、不注意だったあなたも悪いということです。ですから、会社経営に当たっては、絶対に「魔が差す」一瞬を作らないということが重要だというのが私の考えです。

 

上記は、極端な例のようですが、実際にはこれに類似するケースによる不正はたくさん発生しています。

日本人の経営者・監督者の多くが“脇が甘く”結果的に不正の温床(魔が差す機会)を自らが作っているケースが多く見られます。

小切手の管理

今回の不正に関する文章は、冒頭で2回に分けて書く旨お伝えしました。

まずは、会計的に不正の温床になりやすい①小切手と小口現金の管理について、説明を始めます。

 

日本人のタイ現地経営者・監督者で、日本国内の職場で小切手を自分で書いたことのある人は極めて希です。それが、タイに赴任した途端に小切手帳を渡され、発行を依頼されて、戸惑うのは当たり前のことです。

 

まず、小切手を使うメリットを考えてみたいと思います。多額の現金を持ち歩く必要がないこと、紛失した場合に多少の救済方法があるということは誰もが思い浮かびます。ただ、会社経営にとっては、支払い記録が残ること、後になって追跡できる、いわゆる「トレーサビリティー」を確保できるということが、小切手を使用する大きなメリットです。

 

それなのに、まとめて「CASH」と記載した小切手を切って、現金化している経営者が多くいます。しかも、小切手を切り離した後の手元の半券に発行日時、宛名、金額をメモしません。これでは、小切手の良さを全く活かしていません。なんのために小切手を使用するか分かりません。

 

小切手は一件一様を心がけて、使用するべきです。確かに、小切手用紙一枚は15バーツします。ですから、よく、3-4件の支払いをまとめて1枚の小切手で済ます経営者がいます。これは、原則的に止めるべきです。

 

小切手は、支払うべき相手が誰であり、なんのために、いくら支払うのか、現金化される日時は等、全ての情報が手元に残る半券のメモで管理できます。もちろん、毎月、銀行からは正式な「当座預金口座明細」が送付されるので、支払い済みの小切手のどれが現金化されたかは一目瞭然です。

 

小切手の作成方法については、取引銀行にタイ語版の手引きがありますので、それを日本語に翻訳して一読するのも良いと思います。ネットでも学習できます。私の経験から、「不正防止」という観点では下記の点に気をつける必要があります。

 

まず、必ず、数字列と文字列の両方を記載すること。数字列は記載位置にある「B:バーツ」マークの直後に頭の数字を続けて書きます。空間があると、そこに数字を後で書き足されるという不正の種が発生します。それから、文字列はタイ語と英語が有効です。タイ語だけが有効ということではありませんので注意してください。さすがに、サインだけして白紙で小切手を渡すという人はいないでしょうが、数字列だけを書いて、文字列はタイ人経理担当スタッフにタイ語で書かせているという方はいると思います。もし、前述の「B」と最初の数字との間に空間があり、文字列を書いていなかったら、何が起きるかは言うまでもありません、怖いことです。英語で文字列を書くのも手間だと考える人には、スマホにアプリを入れておくと良いと思います。数字に該当する英語表記を示してくれます。それを、小切手に転記するだけです。便利な時代になったものです。

 

それから、日付の下にある「bearer」には斜線を入れて、消しましょう。これは、小切手を持参した人に現金を受領する権利を認めるものです。したがって、これを消してないと、現金が手に入りますので、同じく不正の温床になります。Bearerを斜線で消して、加えて小切手の左上に斜線2本を入れておけば完璧です。これで、あなたが発行した小切手は、正しく相手先の「銀行口座のみ」に入金されることになります。

 

これで、問題が起きても、その支払いに関しての遡及調査が可能になります。お金の動きに「足跡」が付くということになります。

 

では、小切手帳を受け取ったらbearerに全て斜線を入れてしまえば良いと考える方もいるかと思います。実際にそうしている人もいます。ただ、そうしたときに不便なのは、宛先を「CASH」として現金を引き出すことができなくなります。小切手を持参したスタッフが現金を受け取ることができません。

小口現金の管理

このことから、誰もが考えるのが、「小口現金: ペティーキャッシュ」の管理上困るから、やはり、その都度bearerは消そうという判断になります。

続いては、この不正の頻度の高い、「小口現金:ペティーキャッシュ」の管理について、書きます。

 

タイに赴任された日本人管理者の多くが、日々の細々とした支出について、悩まされています。お金の動きに注意は必要だとしても、文房具やコピー用紙までも、その都度、依頼書に目を通していたのでは煩雑でなりません。本来の業務にも支障が出ます。そこで、一定金額をスタッフに渡して、小口現金としての管理を委ねるのですが、この管理が適正に行われないと、不正の温床と化します。

 

まず、大切なのは、あなたの会社にとって、小口現金は月額いくら必要かということです。この金額はあくまで“小口”として管理される金額であるということを理解すべきです。私の経験では、従業員7名の会社で、小口現金が100万バーツ余り、未整理で溜まっていたというケースがあります。これでは“小口”でなく“大口”です。

 

小口現金は、小口現金専用の銀行口座を開設して管理することをお勧めします。銀行署名権は経理スタッフにも与えてください。その口座の預金額は決められた金額(小口: 5万バーツ程度)を超えないのですから、心配はありません。顧客からの売上金額が振り込まれてくるようなメインの口座で小口現金も並行して管理をするのは絶対に避けるべきです。

 

そして、最重要なことは、毎月、必ず月末で締めて、担当者に一覧表の作成を指示してください。摘要の正否、領収書の有無などをチェックした後、また、所定の金額になるように、月初に入金して、当月が始まるようにします。これを繰り返します。絶対に溜めて処理してはいけません。

日頃から細かな注意を怠らないこと

ここまで書いてきて、こんなこと分かっているから必要ないという声が聞こえてきそうです。ただ、実際に不正が起きたとケースは、あまりに単純な不注意で驚きます。

 

考えられないことですが、銀行通帳の定期的なチェックをしないばかりか、エレクトロバンキングを使用するに当たって、トークンを経理担当に預けていたというような事例さえもあります。

 

また、日本人の大きな勘違いに、日本の漢字サインは真似されないという思い込みがあります。確かに、真似されにくいのですが、判断する側(銀行・官庁等)に真贋を見分ける眼がありません。したがって、日本人や華僑など漢字圏の人が見れば、絶対に他人が署名したと分かるものが、いとも簡単に通過してしまいます。怖いことですが、現実に事故は起きています。

 

自社の担当者を信頼するということと、無責任な「業務の丸投げ」は全く別物です。

 

重いテーマで、ついつい長い文章となりました。最後までお読みいただきありがとうございます。

次回は生産会社特有の「不正」について書きます。今回は、この辺りで失礼いたします。

 

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