From CEO

第22回 者間距離 取れていますか
〜社会生活で重要な、相手との距離感〜

アルベリーアジアCEOの増井哲朗です。


安全運転には適切な「車間距離」が重要であることは、車を運転する全ての人が分かっていることと思います。


同じように、社会生活の中でも、自分と相手との距離の取り方は重要です。
特に海外で異文化の中で経営・管理に当たる場合には、さらに、このことに注意を向ける必要があります。 今回は「者間距離」というテーマで、タイにおける従業員との距離の取り方の注意点を、私の経験から書いてみたいと思います。


国ごとの文化・習慣の違い


海外で仕事をしてみると、その国々で人と人との距離の取り方が微妙に違うことに気づきます。


インドで仕事をしてみると、立ち話をする時でも、妙に近い距離で話されて驚きます。
また、タイでは、皆様が日常感じていることでしょうが、エレベーターやBTSなどで、日本人的には、もう少し詰めれば良いのにと思うほど“隙間”が空いています。
こうした「物理的」な距離感は目に見えますから、理解しやすく、対応も比較的早く取ることができます。というよりも 自然になじんで、慣れていきます


しかし、目に見えない「情緒的」「気分的」な部分になると、とたんにその距離感の把握が難しくなります。 これは海外に赴任される方が皆さん悩まされることです。
考えてみれば当たり前のことで、その国々の歴史・文化・宗教に裏打ちされた生活がそこにあるからです。


インドで経営の任にあった時は、カースト上位の幹部に掃除用具を手にしてもらうまでには、相当な年月を要しました。
マレーシアでは金曜午後のイスラムの礼拝や断食月(ラマダン)を企業という組織の中でどう消化するのか苦労しました。


海外という異文化の中で、しかも、今まで経験したことがない経営・管理というような新たな任務に就いたとき、戸惑いを覚えない人はいないと断言します。


まず、日本人で上位の役職者として、タイに赴任した方には、専用であるかどうかは別として車と運転手が付きます。
また、住居にはメイドさんが来て掃除や洗濯などをしてもらう人もいると思います。


現在の日本で、こうした運転手、メイドを使うというような生活を経験して来た人はいないと考えて良いのではないでしょうか。
関係性を計ると言っても、まず、全く今まで経験したことのない関係“者”がそこにいるのですから、前記の異文化の問題と相まって、相当に厄介なことです。


社会構造と立場の違いを理解する


タイでの日本人の失敗の多くは「者間距離」が近過ぎることです
日本人の美徳である、自分だけ良い思いをする訳にはいかない、常に平等でありたいという気持ちが強すぎて、ついつい従業員との「者間距離」を縮め過ぎてしまいます


具体的には、従業員とプライベートで呑みに行く、運転手と一緒に食事する、従業員と同じ仕出し弁当を食べるように努力するなどです。
その結果、従業員はボスに好感は持ってくれると思いますが、その距離感に彼ら自身にも戸惑いがあることを理解しなくてはなりません。


タイ人社会は日本人が想像する以上に階級的社会です。普通の従業員であれば自分のBOSSとして、まして社長職にあるような人は本当に尊敬できる人であることを期待しています。 ある意味、適正な距離感こそ彼らにとって快適“サバイ”な状態なのです


私は、ある程度年齢のいった方には「クンポー:お父さん」経営を、若い人には「ピーチャイ:お兄さん」経営を心がけるのが良いと助言しています。 従業員にとっては会社を家庭に置き換えてみると、とてもその組織が理解しやすいのです。
そして、皆さんは、お父さんとしてふさわしい、お兄さんとしてふさわしい、従業員の期待する振る舞いをすることが重要です。


「者間距離」を適正に取った上で、例えば「バイク置き場に屋根を付けて、大切なバイクが雨に濡れないようにしてあげる」「今まで、全て仕出し弁当で済ませていた昼食をご飯とスープだけはキッチンスペースで作るようにする」「経理担当の女性スタッフのサインで引き出せる小口現金専用の銀行口座を作り、業務効率を上げる」等々、従業員を慈しむ分かりやすい施策をどんどん進めれば、「うちのクンポーは優しい」「さすがにお兄さん」という評価に繋がっていきます。


私は、異文化の中での経営では「和して同ぜず」ということが大切だと考えています。


タイ人スタッフと仲良くする、当たり前のことです。でも、私たちはタイ人と同じにはなれません。 日本人である自分をしっかりと確認して、適切な「者間距離」を確保して、賢明な経営・管理を心がけていくことが重要だと考えます。


今回のテーマは、万人向けに書くのはとても難しいことは理解していました。
実際に書いてみて、それが間違いなかったことも確信しました。
ただ、あまりにも、“追突事故”が多いので、老婆心までにテーマとして選びました
少しでも参考になればありがたく思います。

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